乃木神社 〜軍神と愚将の虚実〜 (2023.12.8)

今日は軍神・乃木希典を祀る東京都の乃木坂神社に行ってきました。
乃木希典とは明治の大日本帝国軍人で、評価が真っ二つに分かれている色んな意味で伝説の将軍です。良い方では日露戦争時において難攻不落の旅順要塞を陥落させた、東郷平八郎と並ぶ世界史で評価されるレベルの軍神との超絶評価です。一方の悪評は、旅順要塞を陥落させたもののその実態は、無謀な肉弾攻撃を繰り返して参加将兵10万人中5万人もの死傷者を出した無策の愚将という最低最悪の評価・・・果たしていったいどちらが正しいのかと言えば?


東京ど真ん中の静かな神社


細かい話を言いだすとマニアックにキリが無いので、まずはこの乃木大将が挑んだ旅順攻略戦とはいったいどのようなものだったのかを簡潔に説明すると、

・旅順要塞はただでさえ無数の低山に囲まれた半島の先端という要衝にあり、

・要塞建築が得意なロシア軍が大量のコンクリートでガチガチに固めた大要塞であり、

・見晴らしのよい山上には機関銃と大砲が無数に備え付けられていて、

・乃木大将率いる第三軍はそんな大要塞を時間制限付きで早々攻め落とさなくてはならなくて、

・にも関わらず十分な大砲の弾の補給を受けられなかった。

・しかも要塞攻めには守備兵力の5倍を要するというのが戦の定石だというのに、日本軍とロシア軍の兵力はほぼ互角。

という超超悪条件なんてレベルじゃねーぞ!という戦いだったのです。
にもかかわらず、乃木希典は極寒の遼東半島で4か月の長期にわたって第三軍を統率し、不屈の闘志で勝利に導いたのでした。
ならなぜ「乃木愚将論」などというものがまかり通っているのかと言えば、それは国民的歴史作家・司馬遼太郎のせいと言って差し支えないでしょう。司馬遼太郎が書いた長編歴史小説・「坂の上の雲」において、

・乃木は高貴高潔な精神の持ち主だったが、軍司令官としては無能だった。
・そんな乃木を更迭して、児玉源太郎に指揮権を委譲したから旅順を攻略できた。

というようなことが書かれており、しかもその坂の上の雲がなまじ「小説」としては物凄くおもしろイイ出来でベストセラーとなってしまったのです。
また、1980年配給の二百三高地という映画でも乃木は無能な人格者的に描かれており、これまた映画の出来が非常によくて大ヒットしてしまったがために、ますます乃木愚将論に拍車がかかってしまったのではないかと思います。



心優しい乃木将軍

もっとも司馬遼太郎にしても映画二百三高地にしても、何の根拠も無しに乃木を愚将として描いた訳ではありません。実際日露戦争直後には、一般市民からも当時の大本営からも参加将兵10万中死傷者5万という大損害を出した乃木に対する批判の声があったことは事実でしたので・・・ですが、沢山の死傷者を出してしまったと言っても、それはそもそも短期間で物資が不足している中で最強の巨大要塞を攻略しろという話にそもそも無理があったのです。大本営の乃木批判にしてみても、それはもともとの作戦計画に無理があったという批判をかわすために乃木をスケープゴートにしたという見方をする方が妥当に思えるのですがいかがでしょうか?
また、坂の上の雲では、あまりに無為無策な乃木に業を煮やした参謀本部が乃木を更迭し乃木の親友にして超有能な児玉源太郎に指揮権を委譲させたということになっておりますが、どうやらそれは司馬遼太郎による創作だったということが明らかになっております。と言うかそもそも児玉源太郎自身が、乃木でなければ旅順は落とせなかったと語っているのですから。


かつて乃木将軍の住んだ邸宅跡

果たして乃木希典は軍神だったのか愚将だったのか? その結論はともかくとして、軍神論者にしても愚将論者にしても、乃木希典は高潔高貴な精神の持ち主で、誰もが畏敬の念を抱く立派な人物であったという評価は一致しているところです。なにしろ乃木は明治天皇直々に、幼き日の昭和天皇の教育係を務めているくらいですし、戦後も常々、積極的に戦傷者を見舞って多額の寄付を行っております。また、乃木率いる第三軍では「乃木のために死のうと思わない兵はいなかった」と語られているのですから。

乃木は日露戦争終結時に自決するつもりでした。ですが明治天皇に「どうしても自決したいのならば自分が死んだ後にしろ」と押しとどめられて自殺を思いとどまったものの、旅順攻略戦において多くの兵士を死なせてしまったことに対する自責の念は、いつまでたっても消えることは無かったようです。日露戦争終結から7年が経ち・・・明治天皇が崩御するとその3か月後、乃木は夫人と共に割腹自殺して果てたのでありました。


乃木将軍に敬礼

果たして乃木希典は軍神だったのか愚将だったのか?
その人格面の評価補正を差し引いても、アタシはやはり、厳しい制約の中で不屈の精神で見事に戦争目的を達成した乃木希典は紛れもない名将だと思っております。


希代の名将ここに祀られる


乃木神社
東京都港区赤坂8丁目11の27 千代田線 乃木坂駅から徒歩1分


また、坂の上の雲や二百三高地において無能の極みのように描かれていた参謀の伊地知幸介少将についても同様の被害者です。作中では最前線の状況を知らずにひたすら肉弾突撃を命じるアホ参謀でしたが、実際にはむしろ逆で、大要塞を攻略するには十分な砲撃を行ったうえで塹壕を堀ながら少しずつ前進するべきと主張していたようです。




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